
2016,1,13/佐藤 竜
                                        
                                        
                                        
                                        平塚剛史のつづき。
                                        
                                        
                                        【佐藤 竜】
                                        
                                        
                                        リュウタンとよんでいる。
                                        
                                        
                                        まだ19歳の少年だ。
                                        
                                        ついこの前まで高校生でキックボクサーだった。
                                        
                                        ここのところ急成長中で、日本一働く少年だと思う。
                                        
                                        
                                        KOMAの面接は書類選考を通過した人だけで行われる。
                                        ありがたい事に募集枠に対して多くの応募がある。
                                        
                                        時には数人同時の面接だったりもする。
                                        
                                        しかも、面接に来る人には伝えていないから、その場で鉢合わせて皆驚く。
                                        
                                        短時間で見抜こうと思うとこの方がかえって都合が良い様に思う。
                                        互いが意識し合って、引き出される部分と消されてしまう部分が人それぞれに見えるからだ。
                                        
                                        
                                        リュウタンの時も例に漏れず3人同時面接だった。
                                        
                                        一人は木工経験者。
                                        一人は美大卒でPC作業やデザインができる。
                                        両者とも書類選考時の作品ファイルなどのクオリティーも高かった。
                                        
                                        そして、リュウタンは工業高校卒業見込み。
                                        
                                        まず、彼を呼んだ理由は作品ファイルがカワイかった。
                                        格好付けて体裁を整えるだけのスキルが無いということもあるだろうが、一生懸命でウソが無い感じがした。
                                        
                                        だから俺がどうしてもコイツ呼びたい。話してみたいと言った。
                                        
                                        ただ、社内の前評判では他2人のどちらかでほとんど決まっていた。
                                        
                                        
                                        面接で見るポイントは、どのくらい本気か?根性あるか?正直か?
                                        
                                        この3点である。
                                        
                                        はっきり言ってスキルなどはコレらの次だ。
                                        
                                        ほとんどの場合、経験者と言え素人とそんなに変わらない。
                                        よほどじゃなければ通用しない。
                                        よほどのヤツなんてほとんどいない。
                                        
                                        ある程度の技術は時間が解決してくれる。
                                        だから、きちんと取り組む本気さと続けていける根性が大切だ。
                                        
                                        そして、何より大切なのが正直さだ。
                                        
                                        どんなに技術があったとしても誤摩化すヤツに仕事は任せられない。
                                        
                                        100回の仕事の中で50回失敗しても全部正直に言って50回怒られれば良い。
                                        ケツを拭くのも上司の仕事だ。
                                        どんな失敗でも分かりさえすれば対処の仕方はあるし改善もできるから次に繋げられる。
                                        だから、もう一度任せる事が出来る。
                                        
                                        100回の中で1回の失敗でも隠すヤツはダメだ。
                                        なんのフォローも出来ない。
                                        大きな失敗に繋がる可能性がある。
                                        その場合は会社のダメージもデカイ。
                                        信頼が出来ないからもう二度と仕事を任せる事は出来ない。
                                        
                                        だからクビだ。
                                        
                                        
                                        若いうちは怒られるのが仕事だ。
                                        失敗の責任が取れないんだから怒られる以外にない。
                                        
                                        ただ瞬間的に怒られるだでイイなんて、これほど楽な事はない。
                                        そんな責任すら逃げるヤツなんかにどうせ将来は無いから育てる価値も無い。
                                        
                                        
                                        
                                        その点で彼は、ただただ正直な感じがした。
                                        言い方を変えれば、育て甲斐があると思えた。
                                        
                                        
                                        
                                        だからこの面接の人選に関しては俺がワガママを言った。
                                        
                                        どうしてもコイツがイイ!と。
                                        
                                        
                                        他の2人も良かったが、俺にはダントツでリュウタンが光って見えた。
                                        
                                        
                                        あれからもう少しで一年。
                                        
                                        俺の目に狂いは無かったと思う。
                                        彼を選んで良かった。
                                        
                                        
                                        最初の一年は本人次第だ。
                                        失敗の繰り返しで自分の存在価値も見失う。
                                        こちらは何も出来ない。
                                        一定のラインを超えるまではチャンスも環境を与える事が出来ないからだ。
                                        
                                        耐えてくれよ〜と思いながらただただ見守るしか無い。
                                        
                                        
                                        よく踏ん張れていると思う。
                                        
                                        そして最近、急に伸びてきた。
                                        仕事も覚え、責任感も出てきた。
                                        
                                        かなり早い方だと思う。
                                        
                                        
                                        しかもまだ19になったばかりの少年だ。
                                        
                                        俺が19の頃は実家を追い出され、頑張る事も知らず目標も何も無くプー太郎で一人暮らしをしていた。
                                        
                                        あの頃の俺は今のリュウタンに口もきいてもらえないと思う。
                                        
                                        履物はビーチサンダルしか無かった時期もある。
                                        
                                        二百円のアルバイト情報誌が買えなくて、コンビニで電話番号を暗記して公衆電話で面接のアポとり。
                                        
                                        電気もガスも水道も止められて部屋の中でも息は白く、公園と部屋を往復して風呂に水を溜める。
                                        その水は貴重だった。
                                        身体を流し、洗濯をし、最後はトイレのタンクに。
                                        
                                        しまいには、その土地の暴走族に部屋まで乗り込まれたりもして散々だった。
                                        
                                        ため息しか出ない毎日。
                                        
                                        
                                        
                                        それに比べて目標に向かって仲間と共に一生懸命なリュウタンとのあまりの差にビックリする。
                                        
                                        当時の俺には逆立ちしても絶対に出来ない事だった。
                                        
                                        仕事に失敗して落ち込む彼を見ていて「スゲエな〜」と思う。
                                        だって頑張ってなければ落ち込む事はないもんね。
                                        
                                        
                                        10年後のリュウタンはどうなっているだろうか?
                                        間違いなくKOMAの看板の一人になってくれているだろう。
                                        
                                        
                                        そして、彼にも年上の後輩ができた。
                                        
                                        
                                        
                                        小佐野玲につづく。
                                        
                                        
                                        
                                        












































