2016,2,6/小佐野 玲
佐藤竜のつづき。
【小佐野 玲】
レイちゃんとよんでいる。
昨年10月に入社した新人だ。
年下の大先輩であるマイちゃんから毎日シゴかれている。
「遅えよ!ヤル気あんのか?本気出せよ!」などと25歳の男子が23歳の女子に言われているのを聞いていてつい下を向いてニンマリしてしまう。
実力至上主義において誰もが通る道で、俺にとっても懐かしく感じるからだ。
俺にも年下の先輩がいた。
現在は彼も家具工房を営んでいて今でも関係が続いている。
2年先輩で1つ年下だった。
最初、実力差は雲泥で相手にもしてもらえなかった。
新人の仕事は誰でも出来る単純作業の繰り返しが主となる。
普通に考えたら面白いワケが無いが、それをどのような意識を持って臨むかで過ごす期間と得る実力は全く違ったモノになる。
楽しみとヤリがいをどのように見出すかだ。
時間は解決してくれない。
10年やっても変わらない人もいる。
簡単なのは自分とのスピード競争だ。
全ての作業にタイムを設ける。
その基準は一回前の自分だ。
必ず超える!その為に本気でヤル。
単純に身体の動きの早さや慣れでは、いづれ頭打ちする。
そこからが勝負だ。
根本的な作業のやり方を工夫する。
日々の単純作業の中で1日何百セットと繰り返す。
その単純作業は反復練習として身体の奥まで染み込んで、その先の仕事のベースを創る。
そうやってこの期間を1年で終えた。
気が付けば単純作業では誰よりも早くなっていた。
そこから、彼とのライバル関係が始まった様に思う。
お互い少しタイプが違っていて、どちらかというと俺は段取りや効率を突き詰める方で、彼はとにかくパワープレイのスピードキングだった。
彼がノッてくるとビシビシと熱気が伝わってくるような凄みがあった。
お互い工場の中を移動する時はいつも走っていた。冬でも汗だくだった。
怪我がつきものの仕事だ。
お互いに当然経験がある。
「ヘッ!なに怪我なんかしちゃってんの?迷惑なんだけど〜」といった具合で心配し合うなんて一切なかったが、もっと深い所で繋がっていたように思う。
家具職人という世界を昇って行くんだっていう志で繋がっていた様に思う。
先日、久しぶりに彼と一杯やった。
そんな思い出話やこれからの事なんかを話して酔いがまわった頃。
「俺、今でもお前に負けてねえって思ってるから!」と突然に彼。
「俺だって負けてねえよ!そういやテメエは元先輩だったっけか?」と俺。
「先輩に元とかねえんだよ!先輩は先輩だろ!」
「独立したのは俺の方が先だろうが!今は俺の方が先輩なんだよ!」
などと取り留めの無いやり取りを笑いながら出来るのは、家具職人という同じ仕事をお互いずっと本気でやってきた事を知っているからだ。
同年代が同時期に同じ志しを持って同じ場所で切磋琢磨できるその出会いそのものが掛け替えが無い。
仲良しこよしではない。
認め合える仲間なのだ。
お互い具体的に何か助け合う訳ではないが、今でも踏ん張りながら本気で続けているってコトそのものがいつも支えになるのだ。
すっかり話がそれたが、レイちゃんとはまだ関係が短く、書く内容も無いってのが正直なところだ。
いつもおっとりしているが、鋭い一面もあって面白いキャラクターだ。
話すスピードもゆっくりだが、じっくり考えていることがその内容から伝わってくる。
大学の建築科を出ていて図面作成のスキルも備わっている。
楽しそうに話すレイちゃんの話はどれも聞いているコッチまで楽しくしてくれる。
そして、ダメな原因を外ではなく自分に向けられる人である。
中々これが難しいが自然と出来る人であるから成長も早いだろうと思う。
何かの縁があって今こうしてKOMAに集まった若い衆達も切磋琢磨して認め合える仲間になっていけるだろうと思う。
皆、それぞれ本気でやっているからね。
俺にとっても一緒にいてくれる若い衆達は掛け替えのない存在だ。
全面的に信頼して安心して付き合えるパートナーであり、仲間であり、子供でもある。
ありがたいと心から思える人たちに囲まれている。
そして、松岡家には3人の実の子供達がいる。
「松岡家の子供達」につづく。