2015,12,28/海老沢 俊
武内舞子のつづき。
【海老沢 俊】
エビちゃんとよんでいる。
俺が昔、人を困らせたり迷惑を掛けたりしたオトシマエとして、
俺の誕生日に合わせて神様か仏様が送り込んだのだと思っている。笑
人の言う事は全く聞かない。
我が道をただひたすら突き進んだかと思えば自分の都合で立ち止まったりする。
社会不適合者だが、突き抜け過ぎていて善し悪しを超越している。
本人に自覚が無い所が本物の証だと思う。
2009年7月
西新宿にあるデザインセンターOZONEで展覧会をしていた。
俺は接客の様なことが相変わらず苦手で、会場の入り口に設置されている受付カウンターの中に脚を組んで座り、眉間にしわを寄せて本を読んでいる。
だから誰も話しかけてこない。
全く役割を果たしていないがそれでいいのだ。
出来ないことは出来ないのだ。
そんな時。
「あの〜すみません。。。」
蚊の鳴くような声のお手本だ。
目を上げると色白でポチャポチャしたお餅みたいな顔に昔の数学教師みたいな眼鏡をかけた少年が立っていた。
微妙にサイズが合っていないヨレたTシャツにジーパン。
大きなリュックを背負っている。
「なに?」
「募集要項を見て。。。」
「募集なんかしてねえよ。」
また活字に目を落とす。
「あの〜すみません。。。」
「なんだよ。」
手に握られたクシャクシャの紙を見せてくる。
数年前に木工職業訓練校にFAXした募集要項だ。
「いつのだよ?今はしてねえよ。」
また目を落とす。
「あの〜すみません。。。」
「なんだよ!!!」
「どうしてもダメですか?」
「まともに声も出せねえヤツに勤まる仕事じゃねえんだよ。だいたいオマエまだガキだろ!?」
「28歳です。」
「28?!イイ歳じゃねえか!15くらいに思ったよ。よけいダメ。帰れ。」
またまた目を落とす。
一分経過。
「あの〜すみません。。。」
「なんなんだよっ!?」
「工場見学だけでもダメですか?」
数日後、あの時と全く同じ格好でやって来た。
「まあ。せっかく来たし手伝ってみる?」
「ハイ!」
この日は7月7日。
俺の誕生日だった。
「明日も来る?」
「ハイ!」
「明日も来る?」
「ハイ!」
で一週間が経った。
「ところでオマエの名前は?」
「エビサワです。海老沢 俊です。」
「とりあえず履歴書持って来な。」
「ハイ!」
これが始まりだ。
どんな生活をおくってきたのか、とにかく何も知らないし何も出来ない。
新宿区、渋谷区が東京都であることも、ビートたけし、ダウンタウンという芸能人も。
総理大臣も大統領もスポーツもファッションも音楽も歴史も何もかも真っ白だ。
言った事もすぐに忘れてしまう。
もう一度履歴書を見てみる。
確かに国立大学を卒業してる。
「ウソだろ」
「イヤイヤ本当ですよ〜笑」
「絶対ウソだろ!笑」
とにかく仕事はヒドいもんだ。
全ての作業で必ず失敗する。
配送もダメ。お台場に行くはずが世田谷に行ってしまう。
事故って、積んであった家具も破損。
ミラクルの様な失敗の連続だ。
その度にニコニコして
「いや〜すみません。。。」
ブン殴りたくなる。
いつクビにしようか考えながら一年が経った。
また7月7日。
俺の誕生日。
「毎日迷惑かけちゃうんで辞めます。」エビちゃんの方から言ってきた。
願ったり叶ったりのはずだったが、自分でも信じられない言葉が出てきた。
「ダメだ。辞めさせねえ。俺もオマエも何の結果も出してねえ。」
頑固な彼の説得に深夜までかかった。
家に帰ると子供達が誕生日パーティーを企画してくれていたらしく部屋が折り紙やイラストで飾られていたが子供達はすでに寝ていた。
翌日。エビちゃんに缶コーヒーをおごらせた。
それから少しづつ仕事は覚えた。
6年間KOMAに努め、先月独立をした。
おっとり優しいエビちゃんは俺と若い衆の緩衝材の役割を果たしてくれた。
そして、いつものニコニコな様子だが、俺に物怖じせずに意見するヤツだった。
「全部、松岡さんが悪いんですよ〜笑」とよく言われた。
今、なぜあの時クビにしなかったのかを考える。
失敗したら怒られる。
だからみんな誤摩化したりウソをついたりしてしまう。
当然、俺にも経験はある。
人の十倍失敗したけどエビちゃんは絶対に誤摩化さなかった。
人の意見や情報に左右されない。
頑固は決して良い事ではないが、突き抜けていれば善し悪しを超越する。
他人は自分を映す鏡と言うが、自分が自分で嫌いな所が相手の中に見えた時、人は人を憎むのだと思う。
俺とエビちゃんはとにかく正反対。
似た所が全くない。
だから尊重できたのかもしれないし、一緒にいてただ楽だっただけかもしれない。
俺たちは水と油だ。
彼から教わった事は特にない。
俺が教えた事も特にない。
だけど信頼から芽生える友情に近い感情が生まれた様に思う。
そして、間違いなく今のKOMAを創った一人である。
頑張っても頑張らなくても、成功しても失敗しても何でも良いのだ。
彼は唯一無二のエビちゃんだからだ。
だからこれからも俺たちの関係は続くだろう。
どうであれ、手間は掛かるが俺のお気に入りの大好きなヤツだ。
きっと彼も同じ様に想ってくれていると思う。
今日、年末の大掃除をしていると、アイツの残していったガラクタが散々出てくる。
全て捨てるのだ。
どうせアイツは何も覚えていないのだから。笑
友情と言えば、それを遥かに超えた存在である亀井が浮かぶ。
今年の締めくくりは亀井について書こうと思う。
亀井敏裕につづく。